
ランキング応援うれしいです!ありがとうございます
Xのフォローも待ってます!
Follow @gyoraidou
ソフトバンクで通算76勝を挙げた東浜巨が、無償トレードでカープにやって来る。
えっ、ほんとうに。寝起きのスマホに流れてきた見出しを、指で二度なぞった。
出ていく背中なら、何度も見送ってきた。けれど実績のある選手が向こうから来てくれるとなると、どんな顔で迎えればいいのか、正直よくわからない。
長野の時も秋山の時もそうだったけど。胸の奥がワクワクゾワゾワする。慣れてないんだよね、こういうの。
真っ赤なスタンドを覚えていてくれた
カープがトレードで選手を迎えるのは、2019年途中の三好と下水流以来7年ぶりだ。
しかも来るのは、2017年に16勝で最多勝、2020年には最高勝率と最優秀防御率を獲り、2022年にはノーヒットノーランまでやってのけた右腕だ。
そんな男が球団を通じてこんな言葉を寄せてくれた。
「カープといえば、やはりスタンドを真っ赤に埋め尽くすファンの熱い声援がとても印象的です」
いい言葉じゃないか。交流戦の向こう側のマウンドから、あの赤をちゃんと見ていてくれたんだと思うとなんだか照れくさくて笑ってしまう。
でもね、首をかしげる人もいるだろう。今季、東浜は1軍のマウンドに一度も立っていないのだから。
2.37の向こうで黙々と腕を振っていた
ファームでは12試合に投げて6勝4敗、防御率2.37。数字だけ見ればどこが衰えたんだと言いたくなる成績だ。
強いチームの層の厚さというのは、ときに残酷なんだと思う。
ここからは妄想になる。筑後の2軍球場、真夏の昼下がり、セミの声とまばらな拍手のなかで、かつての最多勝投手が若手に混じって投げていた。
ベンチ裏で汗を拭きながら、ちらりと1軍の試合結果を見る日もあったんじゃないだろうか。それでも腕は振り続けた。そんな気がしてならない。
新井監督は2軍での投球データを自分の目で確かめたうえで、「十分、1軍のボールを投げている」と言い切った。この人がわざわざ「十分」と付けるときは、たいてい根拠がある。
東浜といえば、亜大仕込みのツーシームだ。打者の手元ですっと沈み、バットの芯をほんの少しだけ外すあの球。
目を閉じると勝手に浮かんでくる。マツダスタジアムの6回、1アウト1、2塁。
カツン、と詰まった音がして、天然芝の上をボールが転がる。ショートからセカンド、そしてファーストへ。
併殺。三塁側の内野席からワッと声が上がって東浜は表情を変えずにグラブを軽く叩く。
この光景が見たいんですよ。ほんとうに。
もうひとつ、思わず頬がゆるんだ話がある。広島で「どこに住んだらいい?」と、大学日本代表で一緒だった大瀬良に相談したそうだ。
年は大瀬良のほうがひとつ下なのに、東浜は〝大先輩〟と呼んで頼りにしているらしい。広島暮らしの先輩という意味なんだろうか?
不動産屋より先に大瀬良。これ以上ない案内役だと思う。
ソフトバンクの三笠GMは、出場機会を求める本人の希望と、長年の功労者への配慮を理由に挙げていた。追い出されたんじゃない、送り出されたんだ。
14年分の感謝を背負って、東浜はこっちへ来る。そう読むと、「無償」の二文字がちょっと違って見えてくる。
ひとりで埋まる穴じゃないけれど
浮かれてばかりもいられない。カープは今季4位で、これで3年連続のBクラスだった。
床田と森下は国内FA権を行使する意思を固めたと報じられていて去就はまだわからない。36歳の右腕ひとりで埋められる穴じゃないことくらい、誰だってわかっている。
1年ぶりの1軍、初めてのセリーグ、はじめて対戦する打者もたくさん。心配の種は、数えればいくつも出てくる。
福岡のファンにしてみれば、14年一筋の背中を見送るさみしさがあるだろう。その気持ちは、見送り続けてきた側だからこそよくわかる。
春のマウンドで答え合わせを
新井監督は「若い選手の手本になってくれる存在」と話し、「遠慮することなくどんどん引っ張っていってほしい」とまで言った。
勝ち星だけを求めて呼んだわけじゃない、ということだろう。
常勝チームで先発を張ってきた男のブルペンでの準備、試合の前の日の過ごし方、打たれた翌朝の顔つき。
そういうものを、若い投手たちがすぐそばで見られるんです。
それだけでも、このトレードの値打ちは小さくない。
赤いユニホーム姿を思い浮かべると、まだ少しだけ似合わない気がして、それがまたうれしい。
春が来たらあの沈む球でマツダスタジアムのため息を歓声に変えてほしい。
迎える側のドキドキというのも、案外悪くないものだ。


コメント