負けたのに妙にうれしい日曜日の試合 雨の中でも光る辰見鴻之介の足と佐藤柳之介の99球

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辰見鴻之介

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10月18日 日曜日 フェニックスリーグ
ロッテ 2 – 0 カープ 7回降雨コールド負け

雨に流された日曜日の負け試合で、こんなに胸があったかくなるとは思わなかった。

宮崎・日南の天福球場、フェニックスリーグのロッテ戦は7回途中で降雨コールド。0-2の負けだ。

この日のグラウンドには、来年のカープを楽しみにさせてくれる2人がいた。

今季のカープは4位、借金17。チーム打率.223という数字は、冬の入り口でため息をつくには十分すぎる。

床田と森下の去就もまだ見えない。そんな秋だから、宮崎から届く小さな明るい話につい耳を寄せたくなる。

ひとりは侍ジャパンに初選出された辰見。もうひとりはローテの空席をにらむ2年目左腕の佐藤柳之介だ。

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2回ズザッと二塁を奪った背中

まずは辰見から。5番ショートで出て、2回の第1打席でセンター前へきれいに弾き返した。

ここからがこの男の本番なんですよ。続く岸本の打席、辰見は3球目まで、じっと相手投手の動きを眺めていた。

相手のクイックは速い。だけど4球目、迷わずスタートを切った。

ザッ、ザッ、ズザッ。土煙りが上がったときには、もう勝負はついていた。

「クイックが早かったけど、動きとかも見ながら結構良いスタートが切れた」

試合後のこの言葉、さらっとしているのに中身はかなり濃い。初めて見る投手のクセを数球で盗んでもう次の塁を奪っているわけだから。

今回のリーグでは出場5試合中4試合で盗塁。1軍のシーズンが終わっても、辰見の足は休むことを知らない。

覚えてるでしょうか、9月3日のバンテリンドーム。代走で出て4度のけん制をかいくぐり、二塁へ頭から飛び込んだあの場面を。

判定は一度アウト。それでも辰見はすぐにベンチへリクエストを求め、ひっくり返ってセーフになった。

あれで1979年の藤瀬史朗に並ぶ、47年ぶりの代走25盗塁。そこから記録を塗り替えて、代走での盗塁は最終的に27まで伸びた。

楽天時代、1軍での盗塁はゼロ。現役ドラフトでやってきた男がたった1年でここまで来るんだから野球ってわからない。

でもね、この日の打線はあと一本が出なかった。2回も1アウト1、3塁まで攻めながら、浅いセンターフライと見逃し三振でしぼんでしまう。

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3回の痛打から佐藤柳之介が背負った99球

そして、もうひとりの主役の話をしたい。

佐藤柳之介は立ち上がりから、ボールが低いところにすっと収まっていた。最速145キロ、平均143キロのストレートを軸に、ロッテ打線をぐいぐい押し込んでいく。

悔やまれるのは3回だけ。1アウト2、3塁から藤田に2点タイムリーを浴びて先制を許した。

打たれたのは、追い込んでから真ん中に集まった決め球だったという。わかっていても、そこに行ってしまう。

投手ってほんとうに難しい。ただ、ここで崩れなかったのがこの日いちばん良かったところだと思う。

4回以降、スコアボードには静かにゼロが並んでいった。

雨は少しずつ強くなる。マウンドの土は重くなり、指先のボールもぬるっと滑りやすくなっていたはずだ。

それでも左腕は、淡々と腕を振り続けた。7回99球、被安打2、5奪三振。

課題だった曲がり球のストライク率も66%まで上がってきた。地味な数字だけど、こういう一歩がうれしいんだよね。

今年の佐藤柳之介は、きっとずっと悔しかった。1年目は初登板初先発初勝利という派手なデビューを飾ったのに、2年目の1軍初登板は9月29日の東京ドームまで待たされたのだから。

その試合では8回を三者凡退に抑え、11球中10球が真っすぐ。「この時期に初登板の自分に思うところはある」という言葉に、胸の奥にしまってきたものが少し見えた気がする。

この秋、宮崎の若い先発陣には「完投か120球」というノルマが課されている。佐藤柳之介は前回の登板で四国IL選抜を相手に1失点完投し、102球で9つの三振を奪った。

そのときの言葉は「打者の反応を見ながら投げることができた」。来季のピッチコム導入に向けて、宮崎では投手が自分でサインを出して配球を組み立てているんですよね。

捕手のサインにうなずくだけじゃない。1球ごとに自分で決めて、自分で責任を持つ。

雨のなか、打者の膝元をにらみながら次の球を選んでいく左腕。そんな姿が目に浮かぶ。

「来季の戦いはもうスタートしているのでね」

野村2軍投手コーチのこの言葉に、99球で返事をしたような日曜日だった。

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雨音だけが残った天福球場

7回、カープの攻撃中に雨脚がぐっと強まって中断。そのまま再開されることなく、コールドが告げられた。

6回まで打線はわずか3安打。正直、ちょっと寂しいスコアだ。

ベンチへ引き上げる足元で、水たまりがぱしゃっと跳ねる。ふう、と息を吐くしかない幕切れだった。

それでも、負けの重さはそれほど残らなかった。もちろん宿題は山ほどある。

佐藤柳之介には、落ちる球のストライク率31%という課題が残った。横の変化だけで抑え続けられるほど、1軍の打者は甘くない。

辰見だって、足だけで生きていくつもりはないだろう。打撃も内野守備も、侍ジャパン合流までの毎日で磨き続けるという。

新井監督は辰見の侍選出に「この1年で世界が変わったと思う」と話した。ほんとうに、その通りだと思う。

辰見の毎日は驚くほど規則正しい。夜10時に寝て朝6時に起き、7時過ぎにはもう球場にいる。

「常に、自分の武器は磨き続けなければいけない」

晩ごはんのあとにビールを飲みながらだらだらテレビを見ている身としては、ちょっと背筋が伸びる言葉だ。

11月12日からは東京ドームでアジアプロ野球チャンピオンシップ。井口監督が「辰見の足が必ず必要になる」と言うのなら、初めて見る投手でもすぐクセを見抜くあのスタートは、日の丸の背中できっと生きる。

佐藤柳之介の前には、空くかもしれないローテの席がある。待っていても回ってこない席だからこそ、宮崎での1球1球に意味がある。

片方は世界へ走り出し、片方はマウンドで来年の居場所を奪いにいく。

雨に流れた負け試合のなかで、2人の秋はちゃんと前に進んでいた。

日南の雨はもうやんだだろうか。

次にマツダスタジアムで2人の名前がコールされる日を思えば日曜日の冷たい雨もそう悪くない。

ローテの席が空くかもしれない~宮崎で投げる120球が来シーズンのローテを奪いにいく
みやざきフェニックス・リーグで、カープが若手先発陣に「完投または120球」のノルマと投手主導の配球を課し、野村祐輔2軍投手コーチが来季のローテ争いへハッパを掛けた。今シーズン規定投球回に届いたのは床田ひとりだけ。この事実が、そのままカープのチーム成績を表してる。しかもその床田とイニングイーターの森下が、そろって国内FA権の条件を満たしている。冬の入り口で、曲げようのない現実はやけに重い...完投か120球 宮崎で課された宿題宮崎では先発組の佐藤柳之介、斉藤優汰、齊藤汰直に「完投または120球」というノルマがかかっている。斉藤優汰は2試合で計235球、齊藤汰直は2試合で計249球を投げ、佐藤柳之...

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