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10月17日 土曜日
オリックス 8 – 4 カープ
負けた。なのに、スコアを見たあとの気分が妙に軽い。
みやざきフェニックス・リーグ、天福球場で12時30分のプレーボール。秋の日南で、ひとりの若い4番が長いトンネルの出口を見つけた日の話をしたい。
1軍のシーズンが終わると、カープの話題はどうしても少し静かになる。
でも宮崎では、来年の顔ぶれを決める本気のふるい分けが続いているんだよね。
その真ん中にいるのが仲田だ。沖縄尚学から入って3年目、187センチ103キロの右の大砲候補。
ただ、ここしばらくはバットから快音が消えていた。休みだった前日も迎打撃コーチとたっぷり2時間ほど汗を流していたらしい。
球団の公式リポートに残っていた言葉が、胸の奥にずしんと来る。
「僕の立場で休んでいる場合じゃない。打撃を本物にしたい」
21歳がそう言い切る。きょうの打席には、その危機感がそのまま乗っていた気がする。
初回のライト前 あの一打で空気が変わった
初回、先頭の佐藤啓介がライト前へ。盗塁と暴投で3塁まで進んで、2アウト3塁で仲田に回ってきた。
相手先発は権田。ここで凡退したらまた重たい空気に逆戻りだ。
そんな嫌な想像を、乾いた打球音が吹き飛ばした。
変化球を引きつけて、ライト方向へ。先制タイムリー。
この日のテーマは変化球への対応だった。引っ張りたい気持ちをこらえて右へ運ぶのはスランプのど真ん中だと案外勇気がいる。
先発の杉田も、立ち上がりは悪くなかった。1回は三者凡退、ぽんぽんとテンポよくアウトを重ねていく。
3回に今坂のセンター前タイムリーで追いつかれたけど、まだ慌てる場面じゃない。4回表、持丸がライト線へ二塁打を放つと、仲田がまたライト前へぽとり。
ノーアウト1、2塁。久保のファーストへの打球を相手がお手玉して、勝ち越しの1点が転がり込んだ。
でもね、野球はそう甘くない。
その裏の先頭、横山に右中間へソロを運ばれて同点。そこから送球エラーも絡んで、長打にタイムリーに犠牲フライと、打者10人に一気に6点を奪われた。
杉田は5回11安打8失点、自責点5。「走者がいない場面では意識した投球ができたけど、走者を背負うと、対打者よりも気になることが多くなって、今やってることがおろそかになってしまった」と本人は振り返っている。
悔しいだろうな。それでも自分の言葉でここまで言えるなら次のマウンドはきっと違う顔になるはず。
岡本駿は昨年のフェニックスリーグで無双して今シーズンのローテーションピッチャーの座を掴み取った。
ベテランピッチャーでもない、自分に一番近い手本がそこにあるんだよね。
サードのグラブをはじいた打球 そこに大砲の匂いがした
6点差の6回。先頭で打席に入ったのは、また仲田だった。
マウンドは2番手の渡邉に代わっている。点差を考えれば、ここで何かを証明する必要なんてない。
それでも、構えた背中がやけに大きく見えた。
ガツン。
打球はサードのグラブを強烈にはじいて、そのままレフト線を転がっていく。二塁打。
思わず「よし」と声が出た。誰もいない部屋で…
本人は「もう少し打球が上がってくれれば、というイメージだった」と話している。そう、まだ満足していないところがいい。
角度がつかなくても、三塁手のグラブを弾き飛ばすほどの勢い。あれが上がりだしたらと思うと、背中がぞくっとする。
ライト前に2本、レフト線に1本。外角はしぶとく右へ、甘い球は迷わず引っ張る。
これ、迎打撃コーチが描いている絵そのものじゃないだろうか。コーチの説明はこうだ。
「中堅から逆方向への打撃を、入りから入れていこうと話している。力強く振るだけでなく、コンタクトからの逆算も大切。逆方向を意識することで、バットの入る角度が良くなり、対応力やメリットが増えてくる」
9月下旬には筑波大で動作解析も受けたそうだ。地面の力を使うスイングは評価されて、課題は速球へのコンタクトだった。
データと向き合い、コーチと向き合い、休みの日にも振る。その積み重ねが、チームでただひとりの3安打に化けたんだと思う。
「ここ最近、打てていなかったので良かった」
このひと言に、ほっとした顔が浮かぶ。打てない日々のあいだ、きっと布団の中でも打席のことばかり考えていたんじゃないかな。
「迎さんと話し合って、自分のイメージ通りに振れたと思います」
うん、振れていた。結果だけじゃなく、あの打球の質がちゃんと物語っていたんですよ。
若鯉が並べた3つのゼロ
試合はここから、もうひとつの見どころに移っていく。6回からマウンドに上がった3人のリリーフだ。
まずは小船。198センチの大きな体から、ストライクゾーンへどんどん投げ込んでいく。
今坂の鋭いライナーは、サードの辰見ががっちり好捕。守りがピリッとすると、投げる側の肩の力もふっと抜けるものだ。
センター前ヒットは許したけど、持丸が二盗をきっちり刺してチェンジ。13球でスッと片付けた。
7回は高橋。最速145キロのまっすぐを投げきって、横山を見逃し、内藤を空振りで連続三振に斬った。
エラーで走者は出たものの、牽制で一二塁間に挟んでタッチアウト。12球、すいすいと。
8回の杉原は11球で三者凡退。レフトフライ、センターフライ、セカンドゴロと、カウント負けせずに打たせて取った。
公式リポートでは初球ストライク率33%という課題も指摘されていた。それでもテンポよくアウトを重ねていく姿は、見ていて気持ちがいい。
不思議なもので、ゼロが並ぶと打線も息を吹き返す。
7回、渡邉の内野安打と相手のミスで2アウト1、2塁。持丸が左中間を深々と破る2点タイムリー二塁打で、4対8。
9回は佐藤啓介と辰見の連打でチャンスを作り、2アウトから仲田に打席が回った。2ストライクと追い込まれても外角の球をじっと見送り、最後は四球をもぎ取る。
2アウト満塁。一発が出れば同点。
久保の打球が高く上がって、ライトのグラブに収まった。ふう、と長い息がもれた。
負けは負けだ。送球ミスが響いた内野陣は、試合後に三好コーチと日が暮れるまで守備練習をしていたらしい。
そういう話を聞くと、こっちまで背筋が伸びる。
今季終盤は好調を保ちながら、1軍には呼ばれなかった仲田。その悔しさを、ちゃんとバットに込めている。
「一球一球、自分の課題と向き合って、やりたいことができています」
カープには数少ない右の長距離砲。マツダスタジアムのレフトスタンドに白球が吸い込まれる日を、いまから勝手に思い描いている。
小船の大きな体も、高橋のまっすぐも、杉原の丁寧なコントロールも。来年の春、マツダスタジアムのスタンドで見られたらいい。
秋の宮崎フェニックスはまだまだ終わらない。


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