
ランキング応援うれしいです!ありがとうございます
Xのフォローも待ってます!
Follow @gyoraidou
2018年の日本シリーズ第4戦、カープはソフトバンクの東浜巨に5回1失点に抑えられ1対4で敗れた。
東浜に腕をもがれ、甲斐には足をもがれ、文字どおり手足をもがれ何もできない試合だった。
8年前のあの夜の記事をいまになって読み返している。昨日の発表がなければ、たぶん開くこともなかったページだろう。
東浜がカープに来る。ソフトバンクからの無償トレードで。
スマホの画面に2018年の見出しと昨日の見出しが並んでいる。同じ名前なのに胸の温度がこんなに違うものかと、ひとりで笑ってしまった。
あのとき、テレビの前で何度ため息をついたか覚えていない。そのため息の相手が、来年は赤いユニホームでマツダスタジアムのマウンドに立つ。
うれしいのひと言じゃ足りない。
手も足も出なかった79球
NPBのデイリーリポートは、この試合を「広島の“足技”を封じたソフトバンク」という見出しでまとめている。
東浜は5回79球、4安打1失点で、ポストシーズン12試合目にしてようやく初勝利をつかんだ。
カープ打線について試合後の東浜はこう話していた。
「初球からどんどん振ってくる打線なので、初球から決め球のつもりでいってカウントを作ることを心掛けました」
読んでちょっと背筋が伸びた。あの年のカープの積極性を真正面から受け止めて、その上をいかれていたわけだ。
スポーツ報知の見出しには、緒方監督の「先制したかったけど仕方がない」という言葉と、ワースト更新の6連続盗塁死という文字が並んでいる。
リーグ3連覇のチームが、足で崩せなかった。
でもね、あの夜を決めたのは足の話だけじゃなかった気がする。
あの中継プレーで流れは向こうへ行った
1回、1アウトから菊池がレフト前へはじき返した。続く丸が3ボールからの1球を叩くと打球は右中間を真っ二つ。
一塁から菊池が二塁を蹴り、三塁も蹴る。
センターの柳田がクッションボールを素早く拾って、セカンドの明石へ。明石からキャッチャーの甲斐へ、迷いのないストライク送球。
間一髪、アウト。ドームの屋根が揺れるような歓声が、テレビのスピーカー越しにもびりびり伝わってきた。
東浜は試合後に「あれで救われました」と言っている。救われた側の言葉を8年越しに読むと、こっちが救われなかった理由がようやく腑に落ちるんだよね。
あの瞬間から、マウンドの東浜は別人だった。少なくともそう見えた。
2回、3回とテンポよくアウトを重ねていく。調べ直して驚いたのは、5回まで各回の先頭打者をひとりも塁に出していないことだ。
先頭が出ない。だから走れない。
ここなんだよ。
足を使いたくても、そもそも一塁に誰もいない。カープがいちばん得意な野球を、東浜は投げる前からそっと消していたんだと思う。
4回、2アウトから鈴木誠也が外角高めの真っすぐを振り抜いた。カーンと乾いた音がして、打球は左中間スタンドへ一直線。
1点差。テレビの前で拳を握ったのも束の間、その裏にデスパイネの一発を浴びて、また2点差に戻された。
そして5回、2アウト1塁。一塁走者の安部がスタートを切った。
頼む、と思ったときには、もう甲斐の送球がベースの上にあった。スパン、とグラブに収まる音まで聞こえた気がする。
東浜がマウンドを降りたのは、その5回を投げ終えたところだった。本人は「5回にバランスを崩した」と反省していたけれど、こっちから見れば最後まで崩しきれなかったわけで。いったい何を言ってるんだ!?!?
6回からはモイネロ、武田、嘉弥真、森。カープ打線はとうとう1本のヒットも打てなかった。
1対4。きれいに負けた試合ほど、あとからじわじわ悔しさが染みてくる。
あのシリーズ、カープは1勝4敗1分けで日本一を逃した。悔しさはいまも少しも薄れていない。
チームの姿も、あの頃とはずいぶん変わった。2018年に95個あったチーム盗塁は、今季73個まで減っている。
そのうち28個は辰見ひとりで稼いだものだ。走れる選手がいなくなったわけじゃない、でも走るチームかと聞かれると、はいそうですとは言えない。
今季は4位で、3年連続のBクラス。東浜自身も今季は1軍で投げておらず、36歳で初めてのセリーグに挑むことになる。
福岡のファンにしてみれば、14年一筋の背中を見送るさみしさがあるだろう。あの夜ドームを沸かせた投手なんだから、なおさらだ。
今度はあのシンカーをこっちのために
それでも想像するとたまらない。
初球から振ってくる打者をどう料理するか。あの夜カープを手玉に取った頭の中を、若い投手たちにそのまま分けてもらえたらと思う。
先頭打者を出さない。走者を背負っても慌てない。
マツダスタジアムの6回、詰まったゴロが天然芝の上をころころ転がって、内野が軽やかにさばいていく。スタンドのカープファンからワッと声が上がり、東浜は表情も変えずにグラブを軽く叩く。
そんな場面を、春になったら見たい。
辰見が走って、東浜が抑える。8年前に足を封じられた側と封じた側が同じ赤いユニフォームで並ぶんだから、野球ってやつはわからない。
あの夜の悔しさは、もう返してもらわなくていい。そのかわり来年のマツダスタジアムで、あのシンカーをカープのために投げてくれ。


コメント