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カープ 4 – 3 ヤクルト
9回無死一塁、フルカウントの8球目。バットでボールを叩き潰して夜空を切り裂いた。
打った瞬間ライトスタンドのカープファンがぶわっと立ち上がった。ベンチから飛び出す選手、跳ねる帽子、絡み合う腕。
マツダスタジアムの夜が、いっぺんに真夏の温度まで持っていかれた。
七月七日、シン・七夕の奇跡。願いごとを書く短冊なんぞ、あの一振りの前じゃかすんでしまうけぇ。
試合の入りは重たかった。先発の岡本は2回、四球ひとつと立て続けの長短打で3点を先に運ばれた。
岡本駿の表情がテレビ画面越しでも硬いのがようわかる。
それでも2回以降は踏ん張った。5回4安打3失点。数字だけ見ると平凡じゃが、この日の岡本は逃げんかった。
あそこで崩れとったら、9回のドラマも何もあったもんじゃない。
沈黙の打線に灯った小さな火
相手先発の山野が、これがまたよう投げるんじゃ。
防御率2.08の左腕、球の伸びも変化球のキレも一級品で、カープ打線はしばらく手も足も出んかった。
流れが動いたのは5回。小園とモンテロが連打でつなぐと、石原の打球を3塁石井が後逸。1アウト1・3塁で代打・秋山。
粘って粘って、2-2からレフトへ技あり犠牲フライ。1点差にぐっと詰めたあの1本が今から思うたら効いとった。
秋山が右手を握るしぐさがベンチ全体に伝わったんじゃろう。
派手さはないがじわっと灯った小さな種火じゃった。
6回からは島内、遠藤、髙、辻とつないで、追加点をぴしゃりと締めた。
特に8回の遠藤は絶好調そのもの、絡みつくような球を投げ込んで相手打線を黙らせた。
フルカウントからの8球目 七夕の奇跡がふたたびマツダに舞い降りた
9回裏。マウンドには絶好調のキハダ。防御率2.36、セーブ数リーグ屈指の左腕守護神が仁王立ちしとる。
正直、あそこで 「勝った」 と思うたヤクルトファンは多かったろうし、こっちも心のどこかで覚悟しとった。
じゃが、先頭ファビアンがライト前へ運んだ。無死一塁。
打席には我らがカープの4番坂倉。マツダスタジアムのざわめきが、ぐわんとひとつの塊になった瞬間じゃった。
カウントはフルカウントまでもつれた。
ど真ん中の直球で見逃し三振でも仕方ない、そう思うたその8球目。甘く入ったスライダーを、坂倉のバットがどんぴしゃで捉えた。
打球はぐんぐん伸びて、ライトスタンドへ突き刺さった。ボールが着弾する前にもうスタンドは絶叫じゃった。
「基本的に90%ぐらいが直球の投手なので、変化球が来たらしょうがないぐらいで待っている。振ったら当たりました。こっちがビックリ」
自分でビックリと言うてしまうところが、なんとも坂倉らしい。
素っ気ないコメントの奥に4番として背負うとる重みが透けて見えるようで、胸がぎゅっとなった。
ホームインした坂倉を新井監督がぐわしと抱きしめた。そのままチューしそうなあの光景を見てなんかもう涙腺が緩んでしもうたわ。
2017年7月7日。
あの日も相手はヤクルト。5点差の9回、代打で登場した現役時代の新井貴浩が逆転3ランを放って試合を決めた。
ファンが今も語り継ぐ、『七夕の奇跡』
新井監督は試合後、 「あの選手もまあまあいいバッターだったからね」 とにやりと笑うたらしい。
指揮官の照れ隠しみたいなひと言に、9年越しのバトンが繋がった気配がした。
弟子は師匠に応えるようにこう言うた。
「監督に続けてよかった」
短い言葉じゃが、これがまた効くんじゃのー。
坂倉のサヨナラホームランは2021年9月7日、中日戦の絶対的守護神・マルティネスから放った逆転3ラン以来、自身2本目。
あの夜もマツダスタジアムじゃった。あの時の興奮が、また5年ぶりに戻ってきた。
そして七夕の奇跡は、こうしてまた新しい1ページを刻んだ。
『シン・七夕の奇跡』
3位ヤクルトとの差は6.5ゲーム、決してあしたすぐに追いつける距離ではなかろう。
じゃがこういう試合をひとつ拾えると、チームの空気ががらっと変わるけぇ、ほんまに侮れん。
「みんなが喜んでくれている姿を見ることができてうれしかったです」
ヒーローインタビューでそう語った4番の顔からは白い歯がこぼれとった。
自分よりチームメイトの喜ぶ顔を先に思い浮かべる男。
この人がマスクを外し、4番に座る意味をあらためて噛みしめる夜になった。
残り2試合ヤクルトを叩けばゲーム差はぐっと縮まる。3連戦3連勝、口に出したら軽う聞こえるかもしれん。
じゃが、七夕の奇跡を目撃した後じゃ、そう夢見てもバチは当たらんじゃろう。
短冊にひとつだけ願いを書くなら、 「あしたも、あさっても、勝て!」
それだけでええ。


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