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カープ 0 – 1 ヤクルト
球団史上初の継投によるノーヒットノーラン。
マツダスタジアムに集まった21,205人が、9回裏の最後の一球まで確かに息を止めとった。
夜風はぬるく照明はいつもより白いく光っている気がする。
それでも空気だけが普段とは違う張り詰め方をしとった。
ヤクルト先発のウォルターズが来日初勝利をマツダスタジアムで掴んだ。
防御率10.80の右腕が、である。カープ打線は7回まで完全にねじ伏せられそのあとリランソ、キハダとつながれて、最後まで安打が出んかった。
新井監督はこう振り返った。「ゾーンの中でちょっと荒れていたので、絞りづらさはあったと思います。もうちょっと荒れるかなと思ったんだけど、今日は荒れるのがゾーンの中に来てたので、逆に絞りづらさがあったかなと思います」
言い訳やないこれはほんまに正直な分析じゃ思う。ボールが甘く入ってこん、しかし置きにも来ん。
振れば凡打、見送れば見逃し三振。打者にとってこれ以上いやらしい球はない。
栗林のマウンドと沈黙のスコアボード
その裏で、30歳の誕生日を迎えた栗林がマウンドに立っとった。
5月22日の中日戦で右内転筋を痛めてから、およそ1カ月半ぶりの1軍のマウンドじゃ。
2回表、2アウト二塁から山野辺にセンター前へ弾き返された。打球は伸びて三塁打。
それが決勝点になった。たったの1点じゃわ。
けど、栗林は崩れんかった。6回5安打1失点。復帰初戦でこれだけ投げりゃ、文句を言うほうがおかしい。
防御率も1点台のまま、9番のマウンドで踏ん張り続けた。
「久しぶりの登板だったけど、いいピッチングだったと思います」と新井監督。指揮官の言葉に責める色は一切なかった。
スコアボードの、カープ側の「安」の欄に0が並んでいく。回を追うごとに、スタンドの声援が細くなっていくのが分かった。それでも赤い声はやまん。ここのファンは、ほんまにしぶとい。
7回、1アウトから坂倉が一二塁間へゴロを放った。二塁手のグラブの下を抜けていって、右前へ転がった。おおっ、と沸きかけたスタンドが、記録は失策と場内アナウンスにしゅうっとしぼんだ。
あれが安打なら、と思うても、もう遅い。野球はそういうゲームじゃけえ。
9回裏あの2アウト二三塁で見えたもの
9回裏、2アウト。走者は二塁と三塁。打席には代打の菊池。
正直、鳥肌が立った。ノーヒットノーランを食らいかけとる、その最終回に2死ながら得点圏に走者を2人置いた。
ここまで来られるチームが、いったい何チームある思う。
四球を選び、粘りに粘って作った好機じゃった。カウントは動く、キハダの表情も硬い。マツダの空気が、もう1回だけふくらんだ。
菊池がバットを振り抜く。空を切った。ゲームセット。
負けた。でも、あの2アウト2・3塁を作った打線を、わしは責める気にならん。
ノーノー目前の投手陣に食らいついて最後の最後まで一打逆転の場面を作った。あれこそがプロ野球じゃ、あれこそが赤ヘル野球じゃ。
無得点で敗れても、あの9回裏を見せられたら、多くのファンは文句なんぞ言えんじゃろう。
新井監督は短く言った。「また明日に備えたい」
栗林も「なんとか追いついて、追い越したかったけど、また明日に備えたい」と繰り返した。
指揮官と復帰投手が揃うて同じ言葉を選ぶ。
順位は5位。首位阪神とは離れとる。それでも2試合連続サヨナラ勝利で迎えた木曜日じゃった。
連勝の勢いは正直きょうで一度切れた。
じゃが、切れたなら、また明日つなぎ直せばええ。明日からはバンテリンドームナゴヤで中日と3連戦じゃ。
開幕カード以来、3連勝がずっと遠かった。何度もあと一つのところで届かんかった。
今回もまた、3連勝の扉の前で足を止めさせられた。悔しい。
けど、その扉のノブに、いちばん近いところにおるんは、ほかならんカープじゃ。
名古屋であの9回裏の粘りをそのまま9イニングに広げりゃええ。
ウォルターズの荒れ球にやられた悔しさを、そのままバットに乗せて振り抜きゃええ。
きょうの0という数字は、忘れんでええ。忘れんまま名古屋へ持っていこう。
あしたのバンテリンで、若鯉の打球が何本もフェンスへ、外野の芝へ、ライン際へ転がっていく光景を、わしはいまから思い描いとる。
しんどい夜の翌朝ほど、朝陽はまぶしい。
がんばれカープ、名古屋で待っとるファンのためにも、そのバットで叩き潰してくれ。


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