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戦力外通告を受けた小園海斗がマツダスタジアムで荷物を整理し
去就については「なにも話せることがないです」とだけ語った。
そりゃそうだろ。そんな簡単に物事を動くわけないわ。
だいたい、話せることがあったとしても、広島カープの番記者には喋らないよ。
戦力外が発表されてから、もう1か月過ぎた。
気持ちの整理はついたつもりだった。なのに、「小園海斗」という名前を見ただけで、胸の奥がまたざわつく。
なにも話せない その一言の重さ
デイリースポーツの記事に書かれている事実は、それほど多くない。
11月3日、小園は荷物整理のために本拠地を訪れ、去就を聞かれても多くを語らなかった。
それでも、現役続行を見据えて練習は続けているという。昨季のセリーグ首位打者で、3月のWBCでは侍ジャパンの一員だった男が、いまは自分の荷物を段ボールに詰めている。
10月1日、球団は小園を含む4選手と来季の契約を結ばないと発表した。元所属選手の逮捕から始まった一連の騒動を受けて、球団は信頼関係を築くのが難しいと判断したと説明している。
ここは、はっきりさせておきたい。
カープ球団は薬物を使った事実は確認できていないとしていて、小園本人もSNSで法令違反への関与をきっぱり否定している。
その投稿でいちばん目に残ったのは、この言葉だった。
「私には野球しかありません」
飾り気のない一文だ。
長い謝罪のあとに、ぽつんと置かれたこの一言だけは、18歳だった頃の声のように聞こえた。
だけど、と思う。
野球しかない若者から、その野球の居場所がひとつ消えた。その重さをまだうまく飲み込めずにいる。
あの打球の音をまだ耳が覚えている
2019年に報徳学園から4球団競合の末に入ってきた高卒ルーキーが、1年目からいきなり1軍で58試合に出た。
ショートの深いところで打球を捕り体をひねりながら1塁へ投げる。
まだ線の細い背中なのに送球だけは妙に強くて、スタンドがふっとどよめいたのを思い出す。
打席では初球からでも迷わず振っていく。その思い切りのよさが、あの頃いちばんの魅力だった気がする。
そこから何年もかけて、彼は数字で答えを出してみせた。2025年、初めてのタイトルとなる首位打者を取り、最高出塁率までついてきた。
背番号5。
その番号の重みを誰より本人がわかっていたはずなんだよな。
だからこそ今季は見ていてつらかった。1軍では101試合に出て、打率.257、1本塁打、23打点。
8月にはシーズン中としては3年ぶりの2軍降格もあった。
数字だけを並べれば、よくある不振に見えるけれど、シーズンが始まる前から騒動の影がグラウンドの外にずっとまとわりついていたことを思うと、打席でいったい何を考えていたのか想像するだけで息が詰まる。
構える前の一瞬、視線が泳いだように見えた日があった。気のせいかもしれないし、テレビ越しの勝手な思い込みかもしれない。
それでも、あの頃の背中が背負っていたものは、ヒット1本くらいでは晴れない重さだったんだと思う。
戦力外を告げられた日、小園は「信頼はないと言われたので仕方がない」と受け止めた、と報じられた。
言いたいことはあるのかと聞かれ、「ありますけど」と前置きしてからの言葉だったそうだ。
飲み込んだ言葉はどれほどあったんだろう。
26歳の若者があの場でそれ以上を言わなかったことに、彼なりのカープへの義理があったような気がしてならない。
そして11月3日の「なにも話せることがないです」。
1か月前と同じように多くを語らず、それでも練習だけは続けている。
段ボールの角が手のひらに食い込む感じを、ふと想像した。ロッカーの奥から、何年も前のテーピングの切れ端が出てきたりしたんじゃないだろうか。
もちろん、ただ手放しで応援するだけでは済まない気持ちもある。疑念を抱かせるような交友関係や不用意な行動があったことは本人も投稿で認めていて、その責任を痛感していると書いている。
球団の決断も、軽いものではなかったはずだ。昨季の首位打者を失うのを承知で、来季へ向けて区切りをつけた苦しさもまた想像に難くない。
チームは今季、61勝78敗4分けの4位に終わった。内野をどう組み直すのか、正直に言えば心配はまだ尽きない。
一部では、複数の球団が獲得を調査していると報じられている。ただ、あくまで報道の段階の話で、正式に何かが動くのはまだ先だろう。
ユニホームの色が変わっても
新井監督は通告の日、「温かい目で今後を見守ってあげてほしいなと思います」と語った。子を持つ親として苦しい、と口にしたあの言葉を、何度も読み返している。
できることなら、もう一度あの左打席に立ってほしい。それがどこの球場でも、どんな色のユニホームでもかまわない。
いつか違うユニホームでマツダスタジアムの打席に立つ日が来たらそのときは拍手で迎えたい。打たれたら悔しいに決まっている。それでも拍手はしたい。
カープも来季に向けてもう歩き出している。秋の冷たい風がコンコースを吹き抜ける頃には、新しい顔ぶれの声がグラウンドに響くはずだ。
その声を聞きながら、遠いどこかでバットを振っている小園のこともきっと思い出すんだろう。
勝ち負けや数字の話をしたいわけじゃない。朝起きてグラウンドへ向かう足取りが軽い、そんな当たり前の毎日を取り戻してくれたらそれでいいんです。
幸せな野球人生を。
赤いユニホームを脱いだあの背中に願うのはそれだけだ。


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