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阪神 2 – 1 カープ
甲子園が、やけに華やいでいた。
阪神はリーグ連覇を決めたばかり。この日は岩貞祐太の引退セレモニーまで組まれていて、試合前からスタンドはお祭りムードだった。
対するカープは前日に4位が確定し、残り2試合はいわば完全な消化試合。42,565人の甲子園に、完全にアウェーの空気が漂っている。
それでも見届けたい試合だった。
マウンドに上がるのはドラフト4位のルーキー、工藤泰己。プロ2度目の先発。
前回の横浜では5回2失点と堂々と投げきっている。
あの再現を、もう一度。そんな期待がどこかにあった。
初回から工藤を襲った甲子園の圧
いきなり、つまずいた。初回、先頭の近本に三塁線を破られる二塁打。
ルーキーの立ち上がりに、百戦錬磨の1番打者は容赦がない。
2アウトまでこぎつけたものの、4番・佐藤輝明にセンター前へきれいに弾き返された。先制タイムリー。0-1。
打球がするすると外野の芝を転がっていく光景に、小さくため息が漏れた。
2回はもっと苦しかった。四球から走者をため、2アウト2、3塁で再び近本。セカンドへの内野安打。ボテボテのゴロが二塁手の横をすり抜けていく。
近本の足も速いが、あの打球を処理しきれなかった場面には打たれた以上のダメージがあったんじゃないだろうか。0-2。
工藤はここで降板。2回4安打2失点。プロ初黒星がついた。
新井監督は試合後、「前回のハマスタのときよりもちょっとストライクを取るのに苦労していたかな。それをまた次に、来年につなげてほしい」と語っている。
厳しさと期待が同居する、いかにも新井監督らしい言葉だった。
それにしても、打線が沈黙していた。
相手先発の大竹が、この日はいつもよりストレートにキレがあった。
新井監督も「今日はいつもより真っすぐがきているな、という感じでした」と認めるしかない出来。
チェンジアップとの緩急にカープ打線はことごとく空を切り、大竹が降りた6回までチームのヒットはわずか1本。
打線全体がまるごとDCモーターの扇風機だった。
坂倉だけが抗った6回 そして岩貞のラストマウンド
ようやく試合が動いたのが6回表。
2つの四球で2アウト1、2塁の場面を作り、打席に坂倉。この試合、チーム唯一のヒットを放っていた男だ。
大竹の投じた球を、坂倉はセンター前に弾き返した。タイムリーで2-1。
この日のカープで大竹の球をまともに捉えられたのは坂倉だけだったと言っていい。2安打のうち2本が坂倉。孤軍奮闘という言葉がこれほど似合う事も珍しい。
なお1、3塁。追いつくチャンスだった。だけど、5番の佐々木がセンターフライに倒れて、反撃はそこまで。あと一本が遠い。ほんとうに遠かった。
佐々木泰は100安打まであと3本。この日はノーヒット。
明日の試合で猛打賞いくしかないよ。
7回裏 甲子園の空気が一変した
岩貞祐太がマウンドに上がる。この日が現役最後の登板。同期入団の梅野がマスクをかぶると、スタンドから万雷の岩貞コールが降ってきた。
打席には末包。岩貞は2球で追い込むと、4球目、141キロの直球を投げ込んだ。空振り三振。甲子園全体が大きく揺れた。
藤川監督がマウンドに歩み寄り、同期の岩崎にスイッチ。
岩貞は内野陣に囲まれながらマウンドを降り、カープのベンチに向かって深く一礼した。
正直なところ、複雑な気持ちなんですよ。
自分たちが負けている試合で、相手チームの引退セレモニーを見届けるのは…
でもセレモニーで大瀬良が花束を渡し、岩貞と抱き合った光景には、敵味方を超えた13年間の重みがあった。
野球はいいな、と素直に思えた瞬間だった。
終盤、カープの打線が大竹の後を継いだ阪神リリーフ陣を崩すことはなかった。
岩崎、石井、工藤翔と続く継投の前に、最後までカープ打撃陣のバットは湿ったまま。14三振。数字にすれば、それだけで十分に語れてしまう完敗だ。
赤木晴哉の来シーズンが期待しかない
2番手で登板した赤木晴哉。ドラフト5位のルーキーが3イニングを無失点で投げ切った。
今季の阪神戦は3試合6イニングを投げてすべて無失点だという。先発の工藤とは明暗が分かれたけれど、どちらもまだ1年目。
新井監督は赤木について「ゼロで帰ってきたというのは良かったことだと思う。ルーキーでたくさんいい経験ができたと思うので、彼もまた来年ひとまわり大きくなってと期待しています」と語っている。
工藤の悔しそうな顔。赤木が黙々と投げ切った3イニング。
消化試合だからこそ、二人のマウンドの記憶がくっきりと残った。
数字の上では負けでも、あの二人が甲子園で投げた事実は来季に確実につながっていく。
あしたは2026年シーズンの最終戦。玉村が先発して甲子園で今年を締めくくる。
新井監督は「最後にファンの方に喜んでもらえるような、いい試合にしたいです」と短く言った。
61勝77敗4分。4位。数字だけ見れば苦しいシーズンだった。
けれど、苦しい年ほど最後の1勝に込める気持ちは濃くなるものだ。勝って終わろう。
そうしたら、長い冬の入り口がほんの少しだけ明るくなる。
テレビを消したあとの部屋に、来季への小さな灯がポツンと残るような、そんな最終戦になるといい。


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