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中日 1 – 5 カープ
10月1日のマツダスタジアムはいつもと空気が違った。
昼過ぎにスマホに飛び込んできたニュースが、まだ胸の奥でざらついている。小園海斗、矢野雅哉、前川誠太、田村俊介。4人に戦力外通告。鈴木球団本部長は「信頼関係を築くのが難しいと考えた」と説明した。
理由は理由として、頭では理解できる部分もある。でもね、小園は去年の首位打者。彼のバッティングを何度もマツダスタジアムのスタンドで見てきた。
気持ちの整理がつかないまま、足はマツダスタジアムに向かっていた。
スタンドに着いて、ぐるっと見渡す。18,915人。エンジ色の座席がやけに目立つ。今シーズンでも屈指の少なさだろう。
来ている人たちもどこか表情が硬くて、いつもの「待ってました」みたいな高揚感が薄い。
球場全体が、どんよりとして戦力外のニュースをまだ消化しきれていないような空気だった。
左腕エースの静かな立ち上がりと奨成の一振り
マウンドに上がったのは床田。この試合の開始時点で、規定投球回まであと8回2/3。4年連続の到達がかかっていた。
カープの左腕では川口和久以来という数字だ。
序盤の床田は、いつも以上に淡々としていた。丁寧に低めを突いて、中日打線に芯を食わせない。ぐうの音も出ない制球。
派手さはないけれどあの静かな腕の振りに、左のエースとしての矜持がにじんでいた。
試合が動いたのは3回裏。2アウトから、床田自身がバットで左前に弾き返して出塁する。投手が2アウトから塁に出るのは地味に大きい。
続く1番、中村奨成。カウント1-1からの3球目。スイングの瞬間、打球がぐっと上がった。レフトスタンドへ飛び込む先制の4号2ラン。前日に続いて2戦連発だ。
打った瞬間の中村奨成の表情が少しだけ誇らしげに見えた。
ヒーローインタビューではなく試合中のことだから確かなことは言えないけれど、チームが揺れている日に自分の一振りでスタンドを沸かせてやるという気迫はあったと思う。
「トコさんが2死から出てくれたので」という試合後のコメントが床田への信頼をそのまま映していた。
でも正直に言うとこの2ランホームランの瞬間、心の底から喜べたかというと少し違った。うれしいはずなのに、なんだろう、心に突き刺さったトゲが邪魔をする。
スタンドの拍手もどこか控えめで、カープファンはみんな同じ気持ちだったんじゃないだろうか。
坂倉の一発と床田が見せた意地の106球
6回裏、試合をさらに動かしたのはルーキーの勝田だった。右中間を割る3塁打で一気に好機を作ると、菊池がライトへ犠牲フライを打ち上げて3-0。
そして2アウトからの坂倉。ライトポール奥の中段へ吸い込まれていく15号ソロ。4-0。坂倉はダイヤモンドを回りながら小さくうなずいていた。あの一発で、この試合は決まったようなものだ。
7回表、床田がこの日唯一つかまったのが細川の25号ソロ。バックスクリーンへ叩き込まれた一発は、さすがに力のある打球だった。4-1。
ただ、床田は表情を変えなかった。帽子のつばに手をやって、すぐ次の打者に向き直る。あの切り替えの速さが、床田という投手の芯の部分なんだろうな。
7回裏には中村奨成がタイムリーを放って5-1。この日3打点。数字だけ見ればヒーローそのものだ。
そして床田は8回も9回もマウンドに立ち続けた。9回、この日最速の149キロを計測。
「最後なんで出し切ろう」と思ったらしい。最後の打者は、被弾した細川。直球勝負で空振り三振。
106球、今季初完投。石原のミットに最後の1球が収まった瞬間、マウンド上でハイタッチを交わす姿にふっと息が楽になった。
たしかに良い試合だった それでも残る心のわだかまり
試合時間2時間12分。淡々とでも中身はぎゅっと詰まっていた。
お立ち台に上がった床田が「ホームラン打ちたかった…」とこぼして、場内が笑いに包まれた。
「全打席ホームラン狙っていた」とも言った。打席でも2安打を放ってリーグの投手最多9安打。投げて打ってエースがひとりで試合を引っ張った夜だった。
4年連続の規定投球回到達。チーム単独トップの8勝目。
新井監督も「危なげなく、良いピッチングだった」と静かに称えていた。
勝田の2打席連続3塁打も光った。ルーキーが消化試合に近いこの時期に、こういう爪痕を残すのは大きい。
新井監督が「少しずつではありますが、成長してくれている」と言ったその言葉に来季への種が見えた気がした。
カープは4位。59勝76敗。Bクラスはとっくに確定していて、残り試合も数えるほどだ。中日戦は16勝9敗でシーズンを終えた。
2016年以来10年ぶりの対中日16勝なんていう数字も出てくるけれど、今夜はそういう記録よりも、胸でつっかえている感情がある。
床田の完投も、中村奨成の2ランも、坂倉のソロも、ほんとうに良かった。それは嘘じゃない。
なのに帰り道、マツダスタジアムの照明を背中に受けながらすっきりしない。4人がもうあのグラウンドに立たないという事実が勝利の余韻にじわっと混ざってくる。
きのうの勝ちを、きのうの床田を素直に讃えたい。そう思えば思うほど、小園たちのことが頭をよぎる。
ファンというのは厄介なもので、うれしい夜なのに切なくて、切ないのにうれしい。そういう夜がある。
あすは本拠地最終戦、マツダスタジアムは久しぶりにチケット完売。
カープは勝っても負けてもカープだ。この複雑な気持ちごと抱えて、またマツダスタジアムへ足を運ぶ。
それしかできないし、それでいいんだと思う。


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