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カープ 9 – 3 斗山
やっと勝った。
秋の宮崎で6試合ぶりの白星だ。
フェニックスリーグも中盤を過ぎてカープは負けが先に立っていた。
若手の顔を見るためのリーグだと頭ではわかっていても、負けが続くとやっぱりビールの味が少し苦いんだよね。
舞台は日南の天福球場。
この日は夕方からドラフト会議があって、カープファンの頭の半分は東京のほうを向いていたかもしれない。
でも、こっちの試合を観ていた人はちゃんと得をしたはず。打の久保、投の斉藤。
久保の今季はほんとうにしんどかった。2月と9月に頭部死球を受け、3月には右足を痛めて3カ月近く実戦から遠ざかっている。
1軍では打率.167。課題を聞かれて「バッティングです」と自分で言い切っていたくらいだ。
そんな男が9月の終わり、球団初の試みで筑波大へ行った。全方向からカメラを向けられて打撃フォームを解析され、はっきり指摘されたのが右腰の開きが早い癖。
「そこを重点的に練習したい」
宮崎に入る前、久保はそう話していた。
ライトへぽとり 癖を直して打てた初回の一打
1回、岸本が見逃し三振。続く辰見が自打球を左足に当てて退いてベンチがひやっとした。
代打の小林がライト前へ運んで3番の久保に回る。打球はふわりと上がり、ライト前にぽとりと落ちた。きれいな当たりじゃない。だけど右打者がライトへ落とすには、腰がぎりぎりまで我慢できていないと難しい。
その回は渡邉のショートゴロ併殺で終わった。それでも何か予感めいたものだけは残った。
マウンドの斉藤も立ち上がりは落ち着いていた。四球をひとつ出したけど、ライトフライ2つでさらりと片づける。
2回、持丸がライトへ二塁打。仲田もライトへカーンと続いてタイムリー二塁打で先制だ。
西川のサードゴロの間にもう1点。その裏、斉藤は空振り三振を2つ並べて、ぴしゃりと抑えてみせた。
3回は小林が歩いて久保の2打席目。今度は低い打球が、しゅっとライト前へ抜けていく。
1アウト満塁から仲田のセンター犠飛、さらにショートの落球で4点目。相手のミスにも助けられたけど、流れを作ったのは間違いなく逆方向への一打だった。
その裏にはレフト内田の好守もあった。レフトフライで飛び出したランナーを戻らせずダブルプレー。
116球の背中と4本目の快音
ここからの斉藤が、ほんとうによかった。4回に三振2つ、5回にもまた2つ。
最速149キロ、平均145キロ。ストライク率は70%で、とにかく追い込むのが早いから見ていてストレスがない。
6回までで3安打8奪三振。前回は三振がひとつしか取れなかったが、この8つがぐっと重たく見えてくる。
6回裏、先頭打者の打球が右中間へ鋭く飛んだ。二塁打コースだ、と思った瞬間にはライトの久保がもう回り込んでいた。
素早く処理してシングルヒットで止める。次の打者がサードゴロ併殺でランナーごと消えた。
あの打球が二塁打だったらこの併殺は生まれていない。守備と走塁で食ってきた男の、いかにも彼らしい仕事なんですよ。
5回の打席は四球を選んでいた。そして7回の先頭、今度はレフト前へきっちり引っ張った。逆方向ばかりじゃない。腰が粘れているから、引っ張っても体が流れない、そんなふうに見えた。
バッテリーミスで2塁、渡邉のピッチャーゴロで3塁へ。最後はまたバッテリーミスの間にホームを踏み、2つ目のミスでもう1点入って6点差。
ところが、その裏に落とし穴が待っていた。レフトへの打球が捕れず、セカンドのゴロも弾いて送球がそれる。ヒットも2本続いて、あっという間に1アウト満塁。テレビの前で、思わず缶ビールを握りしめた。
犠飛で3点目を失っても、斉藤の顔色は変わらなかった。代打をセンターフライに打ち取ってようやくチェンジ。3失点で自責点は0。味方のミスをひとりで背負いこんで、それでも腕を振り続けた背中に、きっと何か言いたいことはあっただろう。
その気持ちを晴らすように、8回表には代打安竹の犠飛で1点を取り返す。そして久保が打席に立った。
打球は、センター前へ。
4打数4安打1四球、2得点。試合後の言葉が、また気持ちいい。
「逆方向へイメージ通りの打球が打てた。これをきっかけにしたい」
イメージ通り。筑波で目の前に並んだ数え切れない数値が宮崎の土の上でやっと1本の打球の形になった。
8回を投げ切って そっと息を吐く
8回裏も斉藤はマウンドに上がった。死球とヒットでランナーを2人背負ったけど最後はファウルフライ。
8回116球、33人。野村コーチも喜んでるはずだ。
9回表、相手のエラーと岸本のタイムリーでさらに2点。仲田はこの日3安打で、2回からずっと打線のど真ん中にいた。
9回裏は高橋。わずか9球、ヒット1本を許しただけで静かにゲームを閉じた。
9-3の勝利。ドラフトの中継が始まるより少し前に、宮崎の試合はもう終わっていた。
フェニックスリーグの白星にどれだけの意味があるかと聞かれたら、正直うまく答えられない。でも、きょうの久保と斉藤には、数字以上のものがあった気がする。
斉藤には宿題も残った。追い込んでからの四死球や、甘く入った真ん中から高めの球を打たれたこと。
それでも、8回を投げ切ったスタミナと8つの三振は、来年の春を想像させてくれる好材料だろう。
久保のほうは、たぶんここからがほんとうの勝負になる。2度も頭にボールを受けた1年の終わりにやっと自分のスイングが帰ってきた。
右腰の癖はそう簡単には消えてくれないかもしれない。だけど、ライト前にぽとりと落ちたあの最初の1本をたぶん私はしばらく忘れないと思う。
秋の宮崎は、来年のカープの種まきの場所。
きょう、その土から小さな芽がふたつ、確かに顔を出した。


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